この記事はフィクションですが、本当にありそうな内容を書いています。
訪問に至った経緯
10年程前に脳梗塞を発症したとしおさん。
同居の妻が熱心に介護されており、特に大きなトラブルなく過ごされていましたが、今回肺炎を起こし入院されました。
背景に、高齢になってきた妻の介護負担の増大がありました。
今回ケアマネージャーより、妻の介護負担軽減や病状観察、排便コントロールを目的に訪問看護に介入して欲しいと依頼がありました。
基本情報
家族構成
- 本人 としおさん 80歳代 男性
- 妻 ふみえさん 80歳代
- 子供はおられない。
- 遠方に兄がおられるが疎遠。
本人の病状経過
- 要介護 5
- 脳梗塞の後遺症
- 左半身麻痺、高次脳機能障害あり意思疎通は難しいが、時々一単語での発語や、うなずき等の反応はあり。
- 嚥下障害があるが、頸部を前屈することで、軟食やとろみをつけた水分は摂取可能。
- 自力排便は難しく、下剤と浣腸をしてコントロールが必要。(以前は妻がイチジク浣腸にて排便を促していた。)
サービス
- 月・木 訪問看護 (今回の退院後より開始。)
- 水 訪問リハビリ
- 水・土 訪問入浴
- 2週間に1回 主治医による訪問診療
2〜4は以前から介入があった。
本日から訪問開始となります。
妻の思い
妻は、できる限り自分で介護をしていきたいと思っている。
これまで何度かケアマネージャーから、訪問看護やデイサービスの提案もされているが、「私ができますから。」と断ってきていた。
としおさんが脳梗塞になった時、「自分がもっと早く気づいていれば、症状も軽く済んだかもしれない。」と自身を責めるような発言もあった。
実際の関わり
病状観察と情報収集
こんにちは。よろしくお願いします。
こんにちは。さっき食事が終わったところです。
こんにちは、としおさん。
はい、、、。
食事はよく食べられましたか?
そうですね。いつも通りに食べてます。柔らかくした野菜やお肉を細かくしてね。
色々と工夫されてるのですね。
もう長いですからね。
むせたりしてませんか?
してませんよ。
肺炎には気をつけないとね。
よかったです。
まずは体温とか血圧を測定しますね。
- 体温 36.5℃
- 血圧 112/60
- 脈拍 66回/分
- SPO2 97%
- 呼吸回数14回/分
- 肺音 クリア
- 腸蠕動音 良好
- 意識レベル 清明
特に問題ないですね。
そうですね。退院してからは特に問題なく過ごしています。
退院してからはお通じありましたか?
ないですね。
自力では難しいので以前は私が市販のイチジク浣腸を毎日していました。
そうでしたか。毎日されるのは大変でしたね。
そうですね。
私も歳で腰とか足も痛いし、下の世話がすごく大変でした。
食事も時間がかかったりで、結局無理に食べさせてしまっていたのか、肺炎になってしまいました。
麻痺があると、食事だけではなく、自分の唾液でも誤嚥して肺炎になりますからね。
食事が原因とは言えません。
これまでよくやってこられたと思います。
それならいいのですが、、、。また色々と教えてください。
わかりました。
それではこれから排便ケアをしていきますね。
ちなみにですが、下剤は何か内服されてますか?
何もしていません。
以前は処方されていたのですが、あまり飲みすぎるのも良くないと思いやめました。
ここ数年は浣腸のみです。
そうですか。毎日イチジク浣腸をしていて、毎回便はありましたか?
いえ、無い時もありました。
硬くて出にくい時もありました。
これからは看護師が週2回来て、その時に排便ケアをすることになりますが、今までよりも回数が減ることになります。
毎日は難しいのですか?
そうですね。
他の利用者様もおられるので、今の所は週2回よりも多くは難しいです。
それ以外の日は私がやらないといけませんか。
いえ、先ほど浣腸しても出ない時があるとおっしゃられました。
2,3日出ないことはよくあることです。
同じような状況の方でも週2回でコントロールしています。
昔は毎日出ていたので、毎日した方がいいと思っていました。
毎日排便があれば、それは良いことです。
ですが、訪問の予定や家族様の負担も考えて回数を得らしてコントロールすることはあります。
もし、便が溜まっていそうな感じがあり、お腹が痛そうであったり、食事が食べにくくなっていたりするような状況であれば、電話をいただければ臨時で訪問します。
そういうものなのですね。わかりました。
ちなみに、デイサービスは利用されないのですか?
ケアマネージャーさんにも言われていますが、今まで自分がやってきたので、デイサービスに行ってもらうことに抵抗があります。
わかりました。まずは看護師が訪問に来ることになって、奥様の負担などがどれぐらい軽減できるかでまた考えましょう。
わかりました。
実際のケア
では浣腸をしていきましょうか。
はい。必要なものはありますか?
- 大きめのビニール袋
- 手袋を3枚
- ティッシュ
- お尻拭き
- ゴミ袋
- たらいに50℃程度のお湯
- タオル
- 浣腸液
- 石鹸
- 替えのオムツとパッド
- あればワセリンかオリーブオイルなど潤滑剤となるもの
- 洗浄ボトル
これぐらいのものがあれば良いのですが、どうでしょうか?
元々私もやってましたので、全てあります。
ありがとうございます。
一緒に準備していきましょう。
- 物品類は基本的には利用者様の自宅にあるもので対応します。
- もし無いようであれば購入してもらうよう依頼してください。
- 事業所で準備している場合はその事業所の方針に従ってください。
- 初回の場合は手袋や潤滑剤となるもの、洗浄ボトルは自宅にない可能性があります。そういった時のために、いくつかセットを持ち歩いておきましょう。
- (予定外で排便ケアをする場合もありますので。)
- 洗浄ボトルは、洗剤の空ボトルや、キャップに穴を開けたペットボトルで代用できます。
- 穴を開けたキャップをいくつか持ち歩いていると、非常時にペットボトルさえあれば洗浄ボトルとして使用できます。
- その家庭によって、使える物品や準備方法、場所など全く異なってきます。それぞれの家庭の特徴を理解して行うようにしましょう。
準備できましたので行っていきます。
いつも最初にマッサージをしていました。
その後に浣腸をして、またお腹をマッサージしながら出るのを待っていました。
それで問題ないですよ。
もう少し出やすいように、暖かいタオルでマッサージしましょうか。
では浣腸していきます。
腹部マッサージ→浣腸→腹部マッサージの手順で実施。
あまり出ませんね。
そうですね。
指を入れてみて排便を促してみましょうか。
としおさん、少し痛いかもしれません。
すみません。
直腸に便貯留あり。
たくさん詰まっているので、指で掻き出しますね。
それは私ではできませんね。
日にちが経つと便は硬くなるので、退院後ということもあって出づらくなっていたのかもしれません。
指を使って出すことは、少し技術も必要なのでこちらで任せてください。
ブリストルスケール3の排便が両手一杯にあり。
これで出し切れましたね。
たくさん出ましたね。
ありがとうございます。
よかったですね。
それでは陰部も含めて洗浄していきます。
最後のおむつなのですが、左側に向くことが多いので、左に多めにパッドを挟み込んで欲しいです。
わかりました。一緒にやって頂けませんか?
はい。
ケア後の関わり
今まで便が硬くて出にくいこともあったようですが、先程の便も硬めでした。
下剤は内服されないのですか?
できれば薬には頼りたくないのでそうしています。
今のような硬さであれば問題無いですが、もっと硬くなっていくようであれば便を柔らかくするお薬や、便の移動を促す薬も使う必要が出てくるかもしれません。
また必要そうであればこちらからお伝えします。
そうですか。
薬を使わなくて便通を促せる方法はありますか?
まずは多めに水分摂取をするようにしてください。
1.5L程飲めれば良いです。
負担のない程度で促してみてください。
わかりました。
今は1Lくらいなので、とりあえず水分は多めに摂るよう意識します。
では本日はこれで訪問を終了させて頂きます。ありがとうございました。
ありがとうございました。
またよろしくお願いいたします。
今回の訪問を振り返って
としおさん、ふさえさんの訪問を振り返ってのポイントをまとめていきましょう。
今後のケアについて
下剤の使用や、浣腸の頻度について
まずは日常生活にて排便コントロールを整えていきます。
どうしても硬便になったり、便が直腸まで降りにくい状態となってくれば、下剤の使用も考えなければなりません。
しかし、下剤を使用することで、看護師が訪問しない曜日にも排便が出る可能性があります。
もちろんそれは良いことなのですが、家族さんの負担軽減のために介入しているという目的があります。
介護負担や本人の苦痛も考えた上で、下剤の使用や浣腸の頻度の調整が必要ですね。
デイサービスの利用について
できればデイサービスの利用も考えていきたいですね。
家族さんの介護負担軽減もそうですが、本人にも刺激になりメリットは多いです。
浣腸も可能なデイサービスもあるため、排便ケアの頻度が多くなるのであれば促していきたいところです。
しかし、ふさえさんは、できるだけ自分で介護をしたいという思いがありました。
長年介護をおこなってきた家族からすると、最も本人のことをわかっているのは家族です。
自分たちが行ってきた方法が本人に適していると信じています。
確かにその通りで、小さな変化に気付くことができるのは、やはり家族です。
デイサービスに行くことで、逆に不安になり、負担が増大する可能性もあります。
無理強いはしてはいけません。
家族の思いに寄り添いながら、介護負担とも照らし合わせて、必要なタイミングで必要なサービスを提案しましょう。
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以上で今回の訪問看護ものがたりは終わります。
今後の関わりも更新していきます。
少しでも参考になれば嬉しいです。
質問等あればいつでも受け付けておりますので、お問い合わせフォームかTwitterのDMにてご連絡ください。
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